ブライダルショップの店員から街頭アンケートと電話を受けた話

2週間ほど前のことでした。

 

水曜日という週のど真ん中の夜、いつものように仕事で疲れ切った中、最寄り駅に降り帰路についていたところ、一人の女性に

「すみませんお兄さん、今アンケートを行ってまして、5分ぐらいで終わるのでちょっと協力してもらえませんか?」

と声をかけられました。

その女性は20代中盤ぐらいと見られる小柄な方で、正直に言うととてもかわいらしい方でした。

 

この手の街頭アンケートが5分程度で終わることやマルチ商法に似た何かではないかというのは重々承知でいたのですが、元来頼み事を断りきれない性格であることと、先述の通りアンケートのお姉さんがとてもかわいらしい方であったこともあり

「あ、はい、大丈夫ですよ」

とOKの返事をし、アンケートを受けることにしました。

(自分の優柔不断さとルッキズムを自覚させられる形となり少しばかりの自己嫌悪に陥ったのは後の話です)

 

アンケートを受けることになり、まず手始めに

「ありがとうございます~。私たち都内でウェディング関連のアイテムの販売をしてまして、例えばこういう商品の販売を行ってるんですよ~」

どうやらブライダルショップによる勧誘のようでした。

それから、大層高額そうな指輪やネックレスやシャンデリアなどのアイテムが載せられたパンフレットを見せられました。

それらとは無縁の生活を日頃送っている異常独身男性的には、そのパンフレットは太陽の光より直視するのが厳しいものでした。

 

数々のアイテムについて説明があった後(ちなみに「5分で終わる」と言われた際に腕時計を見たときからこの時点ですでに15分を回っていました)、アンケート用紙が渡され

・理想の結婚生活像は

・何歳で結婚したいか

・どういうシチュエーションでプロポーズしたいか

・披露宴にはいくらかけたいか

などの項目に記入することとなりました。

先ほどのパンフレットと同様に太陽の光を直視するより厳しい気持ちになりながら記入を行っていったのは言うまでもありません。

 

ちなみに最後に名前と電話番号を書く欄があり、名前は偽名を書いたものの、電話番号については正直に書いてしまっている自分がそこにいました。

適当な電話番号を書いてその本当の持ち主に電話がかかってきたらどうしよう・・・というある種の生真面目さが働いた結果でしたが、今思うとそのようなオーラを出しているところに付け込まれて声をかけられたのかもしれません。

 

 

記入したアンケート用紙をアンケートのお姉さんに渡した後

「ありがとうございます~。ちなみに年齢はおいくつなんですか?」

と聞かれたので正直に答えたところ

「へぇー、○○歳なんですね~。全然お若いですねー」

と言われたので

「まぁまだ20代後半なんで。20代後半は普通に""男の子""の年齢ですからね」

と真顔かつ真剣なトーンで答えたら2秒ほどの間が空き

「・・・はは・・・そうですね。今日はありがとうございました。いやー、今日はお話できて本当によかったです」

との言葉を少し引いた表情でいただき、そこでアンケートが終了しました。

 

20代後半は男の子の年齢だと本気で思っている私としては非常に不本意な反応でしたが、とにかくこのアンケートが終わりほっとしている自分がそこにいました。

 

 

 

それから1週間、特に音沙汰はなく時間は進んでいました。

先述の最後の会話で、(非常に不本意ではあるものの)ヤバい人間と思われた感触はあったので、もう二度と相手にしたくないと判断されそこで終了したのだろうと思っていたところでした。

しかしそう考えていた矢先に、見覚えのない電話番号からの着信が。

99%あの街頭アンケートのお姉さんからの電話で、ブライダル関連の商品を売るのが目的の電話であるだろうとの確信はありつつも、最近の休日は長らく一人だけの時間を過ごす日々で、仕事関係以外での人との会話したさを慢性的に抱えていたこともあり、iPhoneに表示される緑の電話ボタンを気づいたら押していました。

「もしもし~以前お会いした○○です~。🍟さんの携帯番号で合ってますか?」

やはりあの時のお姉さんでした。

ノルマの数字達成のためなら私のようなヤバいと感じた人間に対しても積極的に売り込みをかけに行かなければならない環境に身を置いているのか・・・と少しばかり哀しみの念を一方的に抱いている自分が確かにそこにいました。

 

それからは

「はい、合ってますよ」

「電話つながってよかった~!以前お会いした○○です~。覚えてますか?」

「あ、はい」

「あの時はありがとうございました~。住んでるのもあの駅の辺りなんですか?」

「えぇ、そうですね」

「そうなんだ~。じゃあ出身地もこの辺り?」

「いや、地元はそこそこ近くっちゃ近くですけど別のところで、何年か前から一人暮らしで今ここ住んでるんですよ」

「あ、そうだったんだ~。実は私も地元はこの辺りじゃなくて愛媛の方で、大学進学したときにやっと上京したんですよ~・・・(中略)・・・ところで🍟さんって休みの日は何してるの?」

と、話はだんだんお互いの個人的なことに移ってきます。

まず最初に住んでいる場所の話題から始まり、それからは時折タメ口も織り交ぜつつ、互いの地元や休みの日の過ごし方などの互いの個人的な話題に移行して相手の警戒心を解かせる・・・きっとこの手の商法のマニュアルとして確立されている技法なのでしょう。

話題一つ一つが終わるたびに

「いや~🍟さん話してて本当に楽しいです~」

こちらを上げるお言葉をいただいていました。

言うまでもなくこれもマニュアル的技法の一つでしょう。

しかし、明らかなサービストークだとはわかっていつつも、お姉さんとの会話を楽しんでいる自分がそこにいました。

世の男性各位がなぜ高い額のお金を払ってキャバクラであったりガールズバーに行きたがるのかこれまではずっと疑問に思っていたのですが、今回その心理が大いにわかった気がします。

 

 

 

電話が始まってから40分ほど経った後

「で、前にも言ったかもしれないんですけど私たち都内の○○でウェディング関係の商品の販売やってまして~。明日お店来てみませんか?」

とのお誘いが。

あちらからしたらいよいよ大勝負を仕掛けにきたところということでしょう。

しかし、いくら会話を通じた後でも、当然ながらウェディング関連の商品自体に興味を持てている自分は全くいませんでした。

「いや、明日はちょっと用事あるんで・・・(大嘘)また今度の機会にしてもらえませんか」

と答えたところ

「え、な~に?ごめんよく聞こえなかった」

と光の速さでアイフォーンのスピーカーから声が届きました。

その声はとてもやわらかでしたが、私自身はその瞬間背筋が凍りついたのは言うまでもありません。

しかし、少しうろたえながらも

「明日は友達と朝から遊びに行く予定あるんで・・・(大嘘)ちょっと厳しいです」

答えると

「じゃあ夜8時とかならどう?なんならお店閉まっちゃうけど夜9時ぐらいでもいいですよ。🍟さんとまた直接お話できたら絶対に楽しいのにな~」

とこちらを上げる発言もしつつ、あちらも引き下がりません。

結婚をファンタジーの世界の出来事と考えている私のような人間に対してでさえもここまでの売り込みをかけなければいけないほど厳しい環境に身を置いているのか・・・と、今回の電話がかかってきた時と同様、少しばかりの哀しみの念を一方的に抱いている自分がそこにいました。

しかし、その後は押し問答がありながらも結局後日にという話で落ち着き

「じゃあまた電話するからね~。そのときにまたよろしくおねがいします~」

と言われ、そこで電話が終了しました。

 

電話が終わった後、良心の呵責に苛まれ葛藤しながらも電話番号を着信拒否し、スマートフォンの画面を閉じました。

そしてスマートフォンを閉じた後、目的は商品を買わせるためとはわかっていつつもそれでも確かに楽しんでいた一時を思い出し、涙を流している自分がそこにいました。

 

 

 

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おわりでーす(三四郎小宮)

ちなみに後に調べたところ、今回受けた手法はデート商法という、「恋愛感情を利用して契約を締結させる商法」とのこと(詳細はWikipedia等に譲ります)。

絵画や壺ならまだしも、今回のようなブライダルアイテムを買わせようとするのは私のようなパートナーもおらず結婚とは無縁の生活を送っている人間にはあまり有効ではないのではないかと今でも思うのですが、それ以上に好意を持った店員さんのために商品を買ってあげたいという感情が勝り利益に結びつく・・・という事例の一定数の実績があるからこそ今回のように私に対しても行われたのでしょうか。

ヒトの恋愛感情を利用したマーケットの恐ろしさ、および人間の業深さの際限なさを考えさせられるばかりです。